ギーは、インドやパキスタンなどの南アジアを中心に常用されている精製バターで、サンスクリット語では(ghruta)と言われる。
古来食用、薬用に供されてきたほか、いまもなお灯明や祭壇の供物、火中に投じて炎とする宗教祭儀などに用いられる。
インドでは約3000年以上の歴史を持つ、世界最古の医療と言われる伝承医学「アーユルヴェーダ」や古代インドの経典・古典医学書である「チャラカ・サンヒター」のなかでギーは「無数の効果を上げることができる」と書かれている(チャラカ・サンヒター第1巻:第27章)。
料理や食用だけではなく、マッサージや薬用、そして聖なるオイルとして重宝されている。
とくに宗教的な菜食主義者が食用にできる唯一の動物性脂肪なので、食生活上きわめて重要な地位を占め、インドで生産される牛乳(水牛の乳を含む)の約40〜43%がギーに加工されていると言われるほどだ。
中国唐代の乳製品の「醍醐」が、チーズのような固まり、もしくはギー?にあたることがほぼ定説化しつつある。
同じ形の保存性のよいバターオイルが、高温の西南アジアからモンゴルに至る内陸一帯に存在し、その製法はヒツジ、ヤギ、ウシ、スイギュウ、ヤクなどの発酵乳の粗製バターをとろ火で溶解し、水分と微量のタンパク質を除去して、透明なバターオイルの部分をすくい取る。
またモンゴルのシャルトスのように、生乳を煮て静置した後に浮上する脂肪の層をすくい上げ、それを加熱して同じように取る製法もある。
つまり、昔から明日を生き抜くための糧、そして宗教や精神性とも関わり、保存食、嗜好、食欲増進など飢えの時代の貴重なオイルであった。
◯ アーユルヴェーダ(Ayurveda)
約3000年以上の歴史があるインド大陸の伝統的医学。
ユナニ医学(ギリシャ・アラビア医学)、中国医学と共に世界三大伝統医学のひとつで、相互に影響し合って発展した。
トリ・ドーシャと呼ばれる3つの要素(体液・病素)のバランスが崩れると病気になると考えられており、これがアーユルヴェーダの根本理論である。
「寿命・生気・生命」を意味するサンスクリット語の「アーユス」(Ayus)と、「知識・学」を意味する「ヴェーダ」(Veda)の複合語である。
医学のみならず、生活の知恵、生命科学、哲学の概念も含んでおり病気の治療と予防だけでなく、より善い人生を目指すものである。
健康の維持・増進や若返り、さらに幸福な人生、不幸な人生とは何かまでを追求する哲学的要素も含んでいる。
文献の研究から、ひとつの体系としてまとめられたのは、早くても紀元前5〜6世紀と考えられている。
古代ペルシア、ギリシア、チベット医学など各地の医学に影響を与え、インド占星術、錬金術とも深い関わりがある。
文献に初めて登場するのが西暦800年頃。
それまでは口伝のみで引き継がれてきた。
南インドのタミル地方を中心に伝わるシッダ医学でも用いられたといわれ、1万年以上の歴史があるとされる。
体系化には、宇宙の根本原理を追求した古層のウパニシャッド(奥義書ヴェーダの関連書物)が重要な役割を果たし、バラモン教・六派哲学に数えられるサーンキヤ学派の二元論、ヴァイシェーシカ学派の自然哲学、ニヤーヤ学派の論理学も大いに利用された。
◯ ギー(Ghrita)
性質
ラサ:甘味 ヴィパーカ:甘味 ヴィールヤ:冷性 グナ:油性・重性
ドーシャの影響
ヴァータ(↓) ピッ タ(↓) カパ(↑)
[期待される効果]
・ ピッタを減らす
すべてのピッタ性疾患のアヌパーナとして使われる(一緒に摂るものの意味)。
そのため、ギーはアーユルヴェーダでは重宝されている。
消化促進(内臓への潤い・保護)、記憶力向上(脳の海馬)、精子(生命エネルギー:オージャス)の質を良くする。
若返らせる(ラサーヤナ)とされている。
ギーは、食べ物・スパイスの効き目をサポート。他の薬と一緒に摂れば吸収効果UP。
・ 脂質10種類以上含有
内臓保護や潤いを与える・特に滋養(エネルギー)を与える
[使い方]
・ パンチャアムリタ パンチャ:5つ アムリタ:不老不死免疫向上
痩せ型で、体が弱い人に。5歳児〜
「蜂蜜 + 砂糖 + ギー + 牛乳+カード(ヨーグルト)」 = 1:1:2:3:0.5〜1.0
・ 体重・体力増加:「ギー + デーツ(なつめやし)」
痩せ型で体が弱い人・アグニ(火)の力も強くする
栄養 + 消化吸収の効果
・ 便秘:「牛乳 + ギー」 夜寝る前:ホットミルクギー・ホットミルクココアギー
・ 傷や火傷:ギーを塗る 傷口、灼熱感を軽減する
・ 食前食:「ギー + 生姜の汁」
・ 貧血・虚弱:「レーズン + ギー」で焼く
・ 痔:「ギー + にんにくペースト」と一緒に患部に塗る
・ 治療:ギーを傷に塗る
ギーは傷を治す力が非常に強いとされ古いギーが良いとされている
プラーナギー(5〜30年経過したギー):治癒力があるとされる
・ アレルギー・リウマチ・偏頭痛などに:ナスヤ(点鼻)
アレルギー性鼻炎の人は、ギーを片鼻に1〜2滴ほど入れる
(鼻の膜をギーがコーティング。感染症や炎症を抑える働きがあるとされる)
・ 美味しさUP:チャパティ・パンなどに
・ ギーは「1000の効果・1000の使い道」があるといわれている
[ギーの性質]
① ラサーヤナ(Rasayan):全身を若返らせ劣化を防ぐ
② ワヤスパータナ(Vayasthapan):全身の老化を遅らせる
①②には、「ミルク + ギー」が有効とされている
アーユルヴェーダ+αのすゝめ
・ 砂糖:白砂糖は禁止。ココナッツシュガーやアガベシッロップ、デーツの甘さを利用する。
・ 乳製品(牛乳やギー)を摂取する場合は、国内の牧草飼育で育った乳製品をなるべく使用する。価格や流通などで難しいようであれば、低温殺菌約65度30分、ノンホモジナイズの乳製品などに切り替える。
☆ 〝同量〟のギーと蜂蜜の摂取がいけない
アーユルヴェーダでは、ギーは蜂蜜や魚との相性は悪く、避ける必要があるとされている。
「ギーと〝同量〟のはちみつを一緒に摂取してはならない」。〝〟がなぜいけないのか、なぜ割合が異なれば組み合わせても大丈夫なのかどうか、多くの方が知りたい議題である。
しかし、残念ながら現段階では解明されていない。
アーユルヴェーダの研究者や専門家、医師でも明確な理由が見つかっていないのが現状である。
某インド人アーユルヴェーダの医師いわく、どちらも体に対する効果が強いからではないかと語る。
また、数万人診察したことのあるアーユルヴェーダのインド在住インド人医師に直接尋ねたことがあるが明確な返答は得られなかった。。
私も実際にこの問いに興味がある一人であるため、かれこれ10年以上、普段パンケーキなどを作るときに、同量の蜂蜜とギーで一緒に食して実験している。しかし、特に表立ってマイナスなことは体には起こっていない。自身の人体実験から、おそらく〝同量摂取〟さえしなければ(私は同量でも問題ないが)、適度に程よく、蜂蜜とギーを摂取していれば問題ないとする。
ただし、どちらも生命エネルギー力は強いと心得よ。
一緒に食べないのが無難かもしれない。
ギーのみでいただくパンケーキもまた美味である。
監修 ヨガ栄養士&マクロビオティック愛好家